流星電波観測とは?

流星電波観測とはなにか,また,流星電波観測の歴史や仕組みについて紹介します.

流星電波観測とは?

流星電波観測とは,超短波帯の電波を用いて流星の出現を観測する流星観測方法のひとつであり,昼間でも天気が悪くても観測できることが特徴です.目で見る場合は月明りや街明かり,ピーク時刻が日中になると,見られる流星数に影響しますが,流星電波観測では,月明りなどは関係ありません.継続的に観測できる方法として重要です.

流星電波観測のしくみ

流星電波観測のしくみは,流星が大気を電離し,超短波帯の電波がそれに散乱される現象を利用したものです.

流星は大気を電離する

流星は発光する際に,周辺の大気を一時的に電子とイオンにわける「電離」という状態を引き起こします.すると,その周辺は,瞬間的に電子の濃度が濃くなります.この流星の飛跡にそって,電子濃度が濃くなっている部分を「電離柱」とも呼びます.
流星電波観測のしくみ
電離柱は,流星がそれを生成してから,わずかな時間の間に大きく変化し,時間と共に拡散して消滅します.注意していただきたいのは,流星の発光現象とは別物だということです.難しい話になりますが,流星が発光して目で見える現象は,流星物質や大気の物質が励起されてプラズマ化し,励起状態から通常状態へ戻る際に放出されるエネルギーで光っています。従って,流星の電波観測では周辺大気の電離現象をみていますので,基本的には切り離して現象を考えた方がいいでしょう.

電離柱(自由電子)は電波を反射させる

流星電波観測のメカニズム
自由電子には,超短波(VHF)帯の電波(30MHz~300MHz)を散乱させる性質があります.HROは50MHz付近,FROは70~100MHzを利用しています.この性質を利用し,通常は宇宙空間に突き抜ける超短波帯の電波が,流星が発光し,電子濃度が濃くなった時に散乱される仕組みを利用します.
つまり,流星が出現すると電波が反射するというシステムが完成します.そして,電波が反射してきた数を数えて流星の数(流星エコー)とします.

流星電波観測の歴史

流星を電波で捉えられるということ自体は,20世紀前半から認識されていたようです.現在では,世界各地で常時30地点を超えるデータが集約されています.日本でも多くの方の努力と試験観測,協力によって現在の日本流星電波観測が成り立っています.

前方散乱を利用した流星電波観測の幕開け

流星電波観測は,昔からレーダー観測として実施されてきました.これは後から示す「後方散乱」による流星電波観測です.この方法で観測するには大がかりなシステムが必要でしたが,流星の位置情報をはじめ,詳細情報を得ることができます.1980年代に入り,日本の鈴木和博氏がFM放送局の電波を利用した流星電波観測を発表し,ここからFM放送局の電波を利用した流星電波観測(FRO)がスタートし,様々な観測・研究がされました.

FROからHROへ

1990年代に入り,日本では,FM放送局の増加,特にミニFM放送局の増加に伴って,FM放送局を利用した流星電波観測が困難な状況となってきました.ちょうどその頃,偶然にも,流星電波観測者とアマチュア無線家が,中村卓司氏を介して交流がもて,アマチュア無線を利用した流星電波観測(HRO)の試験観測が90年代半ばに行われ,1990年代終わりには,流星電波観測の定番として確立しました.また,当時はDOSでしたが,自動観測ソフトも開発され,パソコンを用いた24時間観測が実現されていました.

HRO全盛期

1998年~2001年のしし座流星群をきっかけに,高校や大学,アマチュア無線家にも広まり,当時は100地点を超える場所で流星電波観測が行われました.安価なHRO専用受信機の発売や,Windows用の自動観測ソフトが開発されるなど,流星電波観測の実施に向けたハードルが下がったのもこの頃です.さらに,53MHzのみならず28MHzや144MHzなど様々な周波数での観測,干渉計などの様々な研究が進んだ時期でもありました.

SDR普及とFRO復活

日本では,地デジ移行に伴って,ワイドFMが始まったこともあり,2010年代からFM放送局を利用した観測が再開.パソコンに受信機の大部分の機能をもたせたソフトウェアラジオ(SDR;Software Defined Radio)もFRO実施の障壁を下げました.HROと比較するとアンテナも安価で入手しやすく,現在日本の半分近くはこのFM放送局を利用した流星電波観測が行われています.

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