眼視・電波・ビデオ・流星痕全国同時観測キャンペーン
解析結果報告
HRO-TV-Train-Plot Observing Campaign (HTTP-Campaign)


< 協力機関 >
日本流星研究会流星電波観測国際プロジェクト
流星痕同時観測キャンペーン高校生天体観測ネットワーク



このページでは2003年8月2/3日に全国で一斉に行われた,眼視・電波・ビデオ・流星痕同時観測キャンペーンの結果をお伝えします.キャンペーンの当日は天候に恵まれない地域もあったものの,関東地方を中心にデータが集まり,有意義な結果が出てきているのではないかと思います.何かご質問・ご意見などありましたら ogawa@nms.gr.jp(小川宏@筑波大) までご連絡ください.なお,第二回のキャンペーンをふたご座流星群で実施する予定です.定期的にこちらのページをチェックして頂ければと思います.


1. 目的

 流星電波観測は,ここ数年で爆発的な普及を遂げ,各主要流星群において確実に活動を捕らえるなど大きな成果をあげてきている.一方で,流星電波観測の真価が問われ,いかにして意義のある観測をしてデータを得るか,そのデータからいかにして科学的意義を見いだすか,しっかりと考えねばならない時期となっている.特に,流星電波観測で観測している流星エコーは一体どこで発光したものかは,いくつかのシミュレーションや観測は行われているものの,明瞭な結果としては出てきていない.過去,渡部潤一氏,鈴木和博氏,内海洋輔氏らが光学観測と電波観測との同定作業を行ったが,ある一定の結果は出てきているものの,決め手となるような結果は未だ出ていない.その大きな理由としては,観測サイトが単独であることや,秒精度で時刻が記録されていないなどがあげられる.

 そこで今回は,光学観測と電波観測とがお互いに協力して,全国規模で一斉に観測を行おうと考えた.それが「眼視・電波・ビデオ・流星痕全国同時観測キャンペーン」である.各観測方法において詳しい方を中心メンバーとしてお願いし,光学・電波の同定観測を決行した.


2. 実施方法

今回のキャンペーンでは,光学観測と電波観測との同定を行うために,まずは電波観測が観測しているであろう上空の領域(反射領域)を幾何的にシミュレーションして,そのシミュレーションに基づいて,光学観測でその領域を追う.シミュレーションには,渡部潤一氏,内海洋輔氏が使用してきたモデルを使用し,一斉観測は,みずがめδ流星群ややぎ座流星群,ペルセウス座流星群が混在する8月2/3日とした.


3. 反射領域シミュレーション



流星電波観測では,一般的に流星が形成した電子濃度の濃い「電離柱」(流星飛跡)に対して,電波の入射角と反射角が等しいという条件が成り立つ(アンダーデンスエコーにおいて).ここで,入射角=反射角が成り立つ点の集合は,送信局と受信局を焦点とする楕円上に分布する.渡部潤一氏,内海洋輔氏が使用しているモデルはこの発想で,反射する場所を,前述楕円を3次元的にしたもので,回転楕円体を使用している.そして流星の突入ベクトルとある高度Hにおける回転楕円体の法線ベクトルとの内積が0であれば,流星はその回転楕円体に接し,さらに入射角=反射角の条件を満たすこととなる.右の図などを参照していただきたい.イメージとしてはこのようになる.

さて,図のような二点を求めるために簡単な二次元方程式を解いてやる.地球は平面と仮定し,回転楕円体の長半径をaとおきく.x,y,z平面において,まず,回転楕円体の式は,以下のように示すことができる.
   
このとき,dは送受信局間距離の半分である.もうひとつの条件である,流星ベクトルと法線ベクトルの内積が0であることは以下の式から表すことができる.ここで,変数p,q,rは流星ベクトルの成分表示である.
  
このふたつで連立方程式をたて,これらを解いてやる.シミュレーション結果は右図の通りである.

発光高度は70km-120kmを想定して10km毎にシミュレーションした.右図は,茨城県の筑波大学における8月2/3日のみずがめδ流星群の反射領域シミュレーション結果である.丸い点がその反射条件を満たしている点であり,筑波大で観測している領域はこのエリアであることが推測される.時間は1時間毎に計算している.

これらは,UNIX系のC-Shell Script, GMT, Fortranでプログラミング.現在はWindows環境下でもソフトをインストールすることで,DOSプロンプトで動作するようになっている.従って,UNIXやLINUXを使えない方でも実際にこのようなシミュレーションを走らせることが可能である.

さて,話は変わるが,確かに反射領域を右のように求めることは可能である.ただしこれらすべての領域の流星が得られるわけではない.その典型的な例がアンテナの指向性のパターンである.これは,アンテナの見通しということもでき,周辺環境も密接に関係してくる.仮に自由空間に近い場所にアンテナが設置されているとしても,日本の大半の観測地点では2エレのアンテナを用いている.2エレのアンテナのおおよその指向性は以下のようになっている.
  
従って,実際に流星エコーを観測できるエリアというのはこれらの指向性を考慮した結果となり,おおよその指向性を考慮した反射領域はおおよそ右の図のようになる.従って,反射領域を議論するときは,この指向性によって観測できるエリアとそうではないエリアもしっかりと考える必要がある.右の図は筑波大学から2エレのアンテナを西向きに水平設置した場合の実際の観測領域である.指向性はアンテナの背後にも少しあるが,仙台付近の上空にあるエコーは実質的には捕らえていないということになる.

4. 結果
今回のキャンペーンにおいて,眼視観測は5データ,電波観測は49データが集まっている.その中で,0:00〜2:00(JST)までのデータを使用,眼視観測の観測している領域は仙台より南側で,主に東関東から房総半島にかけての上空となっている.まず,眼視観測で観測された流星一個一個に対して,流星電波観測49地点中,何地点で同定が取れているかを割合として算出する.従って,ある流星について全サイトで同定が取れれば,同定率100%となる.


上左の図が,各地方別に調べた同定率である.みずがめδ流星群において,関東地方の同定率は高いが,関西地方では低い.これは,眼視観測で観測している領域が関東から房総半島上空である事と,そのエリアに電波観測の反射領域があるかどうかに依存する.関東地方では,眼視観測での観測時間帯において,反射領域が関東上空に存在するが,関西地方では全体的に反射領域が西側にずれるため,眼視観測で観測している領域に反射領域が存在しない.従って,この結果は,関東地方の電波観測地点の反射領域が関東上空にシミュレーション通り存在していたことを示唆する.これについては以下の図を参照してほしい.イメージ的に示したので領域は概算である.

また,関東地方において,みずがめδ流星群の同時率は高いが,ペルセウス座流星群では同時率が低い.それは,ペルセウス座流星群の反射領域が日本の南海上であるのと同時に,輻射点高度が低く,反射領域は線のように細い.従ってペルセウス座流星群の同定率は低く,みずがめδ流星群の同定率は高い.これについても以下を参照して頂くことにしよう.矢印の部分が今回の解析時間帯である.図より,先ほど書いた反射領域の位置の違いによって眼視観測領域であるかないかが明瞭にわかる.(観測地:筑波大学)

 一方,下のグラフは眼視観測領域に電波の反射領域があるかないかでわけたものである.反射領域が眼視観測のエリア内にあるサイトの同時率は48%となり,エリア内にないサイトの10%に比べると飛躍的にその同時率は高い.従って,先ほどの結果通り,電波の反射領域を眼視で観測すると同時率は上昇し,眼視観測のエリア内に電波の反射領域が存在したことを示しているといえる.


また,以下のグラフは,茨城県つくば市で観測を行っている,原浩敏氏の観測結果で,折れ線が,53MHzと28MHzの同時エコー数,そして折れ線グラフは,53MHzの28MHzに対する割合を示したものである.

7月22日までは53MHzの送信局が福井工業高等専門学校(福井県鯖江市),28MHzが長野県豊科町(矢口氏)となっており,28MHzの送信局と53MHzの送信局が異なる.そして7月22日以降は,28MHz,53MHz共に長野県豊科町が送信局となっており,送信局が同じとなった.

 送信局が同じである場合,たとえ周波数が違っても,送受信局を焦点とする回転楕円体を考えている時は,焦点が同じなので,楕円体も同じとなり,28MHzであっても53MHzであっても同じ反射領域となる(厳密にはハイトシーリングの効果があり違う).つまり,28MHzと53MHzの送信局が異なる7月22日までは,それぞれの送信局に対して回転楕円体が作られるため,そのエリアが重複したときのみ,同時エコーとなりうる.一方,7月22日以降は,回転楕円体が同じであるため,同時率が飛躍的に上昇している.従って,反射領域は確実に送信局と受信局との位置関係で決まっており,今回のシミュレーションの妥当性が改めて実証されると共に,特定のエリアに反射領域が存在することも示している.

5. 今後について

今後は,反射領域の面積を算出し,各サイトでアンテナの指向性を考慮し,単位面積あたりのフラックスに換算.さらにバックグラウンドでエコー補足数を補正し,眼視観測でいうZHRの算出を試みる.これによって,流星電波観測からもフラックスを求めることができ,流星群の活動規模を流星電波観測からもしっかりと把握できると期待される.超えるべき課題がまだまだ多いが,これまで全国的に組織だって一斉実験をしたことはなく,今回のHTTPキャンペーンによって流星電波観測の世界では大きな一歩を踏み出したといえる.

さらに,今回のHTTPキャンペーンでは,宮尾佳世さんが研究している「多周波数解析から流星群の特徴を探る」ことや,流星痕グループ,網倉忍氏ならびに柳田英利奈さんが研究している「火球とロングエコーとの関係」など,多目的な研究が同時進行し,成果も徐々に出てきている.

今後も多くの研究がなされ,今回は流星電波観測がメインとなって動いたが,将来的には,光学観測でも多目的にこのような観測を行い,数多くの成果が得られることを期待する.

最後に,HTTPキャンペーンに参加して下さった皆様に感謝の意を表し,今後ともさらなるご協力を賜りますことよろしくお願い申し上げます.

6. 参考文献
  • Junichi Watanabe (1984): Expected Region of Shower Meteors Detectable by Forward Scattering Method (II), Radio Meteor Research, 12, pp4-21 (in Japanese)
  • Kimio Maegawa (1996): HRO: A New Forward-Scatter Observation Method Using a Ham-Band Beacon, WGN, 27, pp.64-72
  • Takashi Usui, Hiroshi Ogawa, Takema Hashimoto, Kouji Ohnishi, Noriyuki Yaguchi and Kimio Maegawa (2002): The 2002 Leonids Using 28MHz Ham-band Radio Observation (HRO) over Japan, WGN, 30, pp.212-217
  • Yosuke Utsumi (2002): Simulation for Detective Field of HRO, 2002 International Science Symposium on the Leonid Meteor Storms




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